人工知能基本計画
〜「信頼できるAI」による「日本再起」〜
「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指し、イノベーション促進とリスク対応の両立を基本原則に据えた日本初の法定AI国家計画。
政策概要・位置づけ
人工知能基本計画とは何か
人工知能基本計画(以下「本計画」)は、2025年5月に成立した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)第18条第1項の規定に基づき、同年12月23日に閣議決定された日本初の法定AIナショナル計画である。所管は内閣府(人工知能戦略本部、本部長:内閣総理大臣)であり、全閣僚を構成員とする最高位の政策決定体制のもとに置かれている。
本計画の基本構想は、「信頼できるAI」を追求し、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を実現することにある。AIを「危機管理投資」かつ「成長投資」の中核として位置づけ、日本の強みを活かした「反転攻勢」を掲げている。
政策体系における位置づけ
| 階層 | 計画名 | 所管 | 直近策定 |
|---|---|---|---|
| 科学技術・イノベーション基本計画 | 第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021〜2025年度) | 内閣府 | 2021年3月 |
| 年次実行計画 | 統合イノベーション戦略2025 | 内閣府 | 2025年6月 |
| AI専門計画(法定・新設) | 人工知能基本計画 | 人工知能戦略本部 | 2025年12月(本計画) |
| 連携計画 | デジタル社会の形成に関する重点計画 | デジタル庁 | — |
3つの推進原則
策定背景・経緯
なぜ今、法定計画が必要だったのか
本計画策定の背景には、2025年に入り急速に現実化した「AIエージェント」「フィジカルAI」等の新技術と、それに伴うグローバルな競争激化がある。世界各国が官民を挙げてAI投資を強化する中、日本は主要国はもちろん経済規模が小さい国にも後塵を拝するようになっており、「出遅れが年々顕著」と本計画自身が認めている。
一方で日本は、医療・農業・製造業などにおける高品質な現場データ、世界に冠たる通信インフラ、そして「信頼性」という文化的・産業的強みを保有している。この強みを活かし、「利活用」から「開発」へのサイクルを回すことで「信頼できるAI」を創り、反転攻勢に出るというのが本計画の基本認識である。
AI戦略の系譜とAI法制定までの経緯
「AI戦略2022」との連続性と断絶
本計画は過去の「AI戦略」シリーズを継承しつつも、AI法という独立した法律に基づく法定計画へと格上げされた点が本質的な変化である。計画推進の司令塔が内閣総理大臣を本部長とする「人工知能戦略本部」に格上げされ、政治的優先度が明確に高まった。
主要施策・公募情報
4本柱の具体的取組と研究者に関連する施策
公募情報の現時点での状況
本計画は2025年12月23日に閣議決定されたばかりであり、個別の公募・研究開発事業の具体的な公募情報は2026年度以降に順次整備される見込みである。以下では本計画に基づく施策の方向性を整理する。
4つの基本的な方針(施策体系)
研究者に直接関連する主要施策(本文から抽出)
| 施策 | 内容 | 主管省庁 |
|---|---|---|
| AI for Science | ライフサイエンス・マテリアル分野等の基盤モデル開発・研究データ利活用効率化・情報基盤強化・AI基礎研究 | 文部科学省 |
| 産学官連携の強化 | 大学・研究機関・国内外民間事業者との連携・協働を推進。課題解決力を競うコンテストの開催等で現場主導のAI実装を促進 | 内閣府・文科省・経産省 |
| 科学研究へのAI利活用支援 | 産学双方の研究者等に対し、科学研究におけるAI利活用を支援 | 文部科学省 |
| トップ人材の受入 | 国内外からのAI研究者・開発者を確保するため、待遇面・生活環境の向上を含む包括的な取組 | 内閣府・文科省・経産省 |
| 富岳後継機の開発 | スパコン「富岳」の次世代となる新たなフラッグシップシステムの開発・整備 | 文部科学省 |
| マルチモーダルデータ基盤 | 新たなデータセット・AI研究開発に必要なマルチモーダルデータの創出・提供等のデータ連携基盤の構築 | 内閣府・デジタル庁・文科省等 |
| AI人材育成・リスキリング支援 | AIリスキリング、アドバンスト・エッセンシャルワーカー育成、学校教育でのAIリテラシー向上、デジタルスキル標準の改訂 | 内閣府・文科省・厚労省・経産省 |
| 知的財産保護と対価還元 | コンテンツホルダーへの対価還元等の推進、生成AIと知的財産権に関する情報提供、AI利活用により生成された製品・サービスの知財についての検討 | 内閣府・関係省庁 |
最新動向・変化点
AI戦略2022からの主な変化
最重要変化3点
- 法定計画への格上げ:AI法に基づく法定計画として策定。総理を本部長とする人工知能戦略本部が推進体制を担い、政治的優先度が格段に高まった。
- 毎年改定の明記:AI技術の急速な進展を踏まえ、「当面毎年変更」を計画本文に明記。政策環境が年単位で変化することへの対応が求められる。
- AISIの抜本的機能強化:英国AI Security Instituteの規模をベンチマークとし、人員を現状の2倍程度に拡充(2025年9月時点:約200名以上・初期予算約200億円)。
| 項目 | AI戦略2022(前版) | 人工知能基本計画(本計画) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 計画の法的根拠 | 根拠法なし(閣議決定のみ) | AI法(令和7年法律第53号)第18条第1項 | 新設 |
| 推進体制 | AI戦略会議(有識者会議) | 人工知能戦略本部(本部長:内閣総理大臣・全閣僚) | 新設 |
| 計画の改定頻度 | 明記なし(不定期) | 当面毎年変更 | 変更 |
| AISIの位置づけ | AI戦略2022策定後に設置(2024年2月発足)・任意設置 | AI法に基づく法定機関として機能強化(人員2倍・英国規模ベンチマーク) | 強化 |
| フィジカルAI・AI for Scienceへの注力 | 言及あり(軽微) | 日本の「勝ち筋」として明示的に重点化。公的需要創出、自動運転、ロボット開発を戦略的に推進。 | 強化 |
| 知的財産権への対応 | 検討課題として言及 | コンテンツホルダーへの対価還元、生成AIと知財の情報提供体制整備等を具体化 | 具体化 |
| AIガバナンスの国際展開 | 広島AIプロセスを主導(G7) | グローバルサウス諸国との共創モデル構築、GPAI東京専門家支援センターの活用等に拡大 | 拡充 |
| 政府・自治体のAI利活用 | 推進方針として記載 | ガバメントAI推進を明示。指定職・管理職による率先利活用、本府省職員の生成AI利活用環境を速やかに構築。 | 強化 |
| 「人間力」の概念 | — | 「AIと協働する社会を生き抜く人間力」として創造力・思考力・判断力・適応力・コミュニケーション力を明示 | 新設 |
研究者への示唆
本計画が研究活動・資金獲得・キャリアに与える影響
積極的に活用できる点
- AI for Scienceの予算・施策拡充:文科省を中心に、ライフサイエンス・マテリアル等でのAI活用研究が明示的に支援対象となった。AI駆動型の研究開発アプローチへの転換が資金獲得の追い風になり得る。
- 産学官連携機会の増大:国内外からのトップ人材受入・産学官ネットワーク強化が政策として明記されており、企業との共同研究や受託研究の機会が拡大する見込みである。
- 計算資源・データ基盤へのアクセス改善:富岳後継機の開発、マルチモーダルデータ連携基盤の構築が推進されることで、研究現場の計算・データ環境が段階的に改善されることが期待される。
- スタートアップ支援の厚み:AI関連技術を有するスタートアップへの支援(内閣官房・内閣府・農水省・経産省)が明記されており、研究成果の事業化を検討する研究者にとっての環境が整備されつつある。
- フィジカルAI・自律型ロボット研究の優先度上昇:日本の「勝ち筋」として明示され、公的需要創出・研究実証が政策的に後押しされる。ロボティクス・自動化に関連する研究分野での競争的資金獲得に有利に働く。
注意すべき点
- 知的財産権の不確実性:生成AIと著作権・学術成果の関係について、政策的な「整理」が進行中である。AIを用いた研究成果の発表・公開において、著作権や特許のあり方が変化する可能性があり、制度動向を注視する必要がある。
- 毎年改定による制度環境の変化:「当面毎年変更」という計画の特性上、関連する公募・事業スキームや審査基準が年次で変化し得る。複数年度にまたがる研究計画立案の際は、計画の改定動向を継続的に確認する必要がある。
- AI研究セキュリティへの関心の高まり:安全保障との関連(防衛省・警察庁関連施策)がAI政策の中に明記されており、国際共同研究においてデュアルユース・情報管理に関する確認が求められる場面が増える可能性がある。
- AI人材の「質・量」定義が流動的:AI人材育成について「質・量ともに育成・確保」と明記されているが、具体的な人材定義・資格要件は今後整備される段階。文科省・経産省が進めるデジタルスキル標準改訂の内容を継続確認されたい。
所属機関種別による影響の違い
| 所属 | 本計画で特に関連する施策 | ポイント |
|---|---|---|
| 大学・研究機関 | AI for Science、産学官連携、トップ人材受入、富岳後継機 | AI for Science関連の競争的資金・共同研究の機会が拡大する見込み。AIリテラシー教育の需要増加も |
| 企業研究者 | フィジカルAI・ビジネスモデル創出、AIトランスフォーメーション支援、AI導入補助金(中小) | AIXの推進、規制サンドボックス、スタートアップ支援を活用した新事業創出機会が増大 |
| 医療・ライフサイエンス系 | ライフサイエンス基盤モデル開発、創薬AI(厚労省)、医療AIの利活用 | AMED等を通じたAI×医療・創薬研究への支援が強化。文科省・厚労省の両軸で資金機会あり |
今後の見通し
予定されているスケジュールと政策の方向性
見通しの確実性について
本計画は策定直後(2025年12月23日)であり、以下のスケジュールは本計画・統合イノベーション戦略等の一次資料に基づく分析であるが、政治・予算状況により変動する可能性がある。
政策の持続性・安定性についての分析
本計画は「危機管理投資」と「成長投資」の双方にAIを位置づけており、政権・政党を問わず継続される性格を持つ。AI法という独立した法律に基づく法定計画であることが、従来の閣議決定のみによる戦略と比較して政策の継続性を担保している。一方で、毎年改定という特性から、具体的な施策・予算・優先順位は年次で変化し得ることに留意が必要である。
国際情勢(米中AI競争の激化、EU AI規制の動向、広島AIプロセスの展開)も本計画の改定に大きく影響する外的要因であり、特に研究セキュリティや知的財産権に関わる施策については不確実性が残る。
参考資料・出典
本記事の根拠となる一次資料
| 資料名 | 発行元 | 発行日 | URL |
|---|---|---|---|
| 人工知能基本計画(本文) | 内閣府・人工知能戦略本部 | 2025年12月23日 | 内閣府 掲載ページ |
| 人工知能基本計画(概要版) | 内閣府・人工知能戦略本部 | 2025年12月23日 | 概要版PDF |
| 統合イノベーション戦略2025 | 内閣府 | 2025年6月6日 | 内閣府 掲載ページ |
| AI戦略会議(会議録・資料) | 内閣府 | 随時 | 内閣府 掲載ページ |
| AIセーフティ・インスティテュート(AISI) | IPA(AISI) | 随時 | AISI 公式サイト |
| 内閣府 AI戦略ページ(トップ) | 内閣府 | 随時 | 内閣府 掲載ページ |
