人工知能基本計画(2025年12月) 政策レポート | Kouboost

政策レポート / 内閣府・人工知能戦略本部

人工知能基本計画
〜「信頼できるAI」による「日本再起」〜

閣議決定:2025年12月23日 所管:内閣府(人工知能戦略本部) 根拠:AI法(令和7年法律第53号)第18条第1項
新設:AI法に基づく初の法定AI計画 格上げ:AI戦略2022から法定計画へ 毎年改定:年1回見直し予定 4本柱:使う・創る・高める・協働する 2025年9月 AI法全面施行済

「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指し、イノベーション促進とリスク対応の両立を基本原則に据えた日本初の法定AI国家計画。

政策概要・位置づけ

人工知能基本計画とは何か

2025
年12月23日
閣議決定
4
本柱
基本的な方針
3
原則
政策推進原則
毎年
(当面)
計画の見直し頻度
AI法
令和7年法律第53号
法的根拠

人工知能基本計画(以下「本計画」)は、2025年5月に成立した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)第18条第1項の規定に基づき、同年12月23日に閣議決定された日本初の法定AIナショナル計画である。所管は内閣府(人工知能戦略本部、本部長:内閣総理大臣)であり、全閣僚を構成員とする最高位の政策決定体制のもとに置かれている。

本計画の基本構想は、「信頼できるAI」を追求し、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を実現することにある。AIを「危機管理投資」かつ「成長投資」の中核として位置づけ、日本の強みを活かした「反転攻勢」を掲げている。

政策体系における位置づけ

階層計画名所管直近策定
科学技術・イノベーション基本計画 第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021〜2025年度) 内閣府 2021年3月
年次実行計画 統合イノベーション戦略2025 内閣府 2025年6月
AI専門計画(法定・新設) 人工知能基本計画 人工知能戦略本部 2025年12月(本計画)
連携計画 デジタル社会の形成に関する重点計画 デジタル庁

3つの推進原則

原則1
イノベーション促進とリスク対応の両立
内容利活用と安全性の徹底した両立
理念「人間中心のAI社会原則」に基づく
原則2
アジャイルな対応
内容PDCAサイクルで変化に柔軟・迅速に対応
運用当面毎年、計画を見直す
原則3
内外一体での政策推進
内容国内政策と対外政策を有機的に組み合わせる
目標日本が多様なAIイノベーションの結節点へ

策定背景・経緯

なぜ今、法定計画が必要だったのか

本計画策定の背景には、2025年に入り急速に現実化した「AIエージェント」「フィジカルAI」等の新技術と、それに伴うグローバルな競争激化がある。世界各国が官民を挙げてAI投資を強化する中、日本は主要国はもちろん経済規模が小さい国にも後塵を拝するようになっており、「出遅れが年々顕著」と本計画自身が認めている。

一方で日本は、医療・農業・製造業などにおける高品質な現場データ、世界に冠たる通信インフラ、そして「信頼性」という文化的・産業的強みを保有している。この強みを活かし、「利活用」から「開発」へのサイクルを回すことで「信頼できるAI」を創り、反転攻勢に出るというのが本計画の基本認識である。

AI戦略の系譜とAI法制定までの経緯

2019年6月
AI戦略2019 策定
内閣府・統合イノベーション戦略推進会議。「人材・産業競争力・技術体系・国際」の4戦略を提示。
2021年6月
AI戦略2021 策定
新型コロナ対応やカーボンニュートラルを意識した改訂版。
2022年4月
AI戦略2022 策定
生成AIの登場前夜。国際連携・AI安全性を強化。
2024年2月
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)発足
IPA内に設置。G7広島AIプロセスの流れを受け、AI安全性評価の専門機関として創設。
2025年5月28日
AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)成立
令和7年法律第53号。「基本計画の策定」「戦略本部の設置」「AISIの法定化」を規定。
2025年6月6日
統合イノベーション戦略2025 閣議決定
AI基本計画策定を前提とした施策の方向性を先行提示。
2025年9月1日
AI法 全面施行・人工知能戦略本部 設置
▶ AI政策の司令塔機能が法定化。本部長:内閣総理大臣、全閣僚が構成員。
2025年12月23日
人工知能基本計画 閣議決定(現時点の最上位AI専門計画)
▶ AI戦略シリーズから法定計画へ格上げ。「反転攻勢」「信頼できるAI」を国家目標として明定。
📌

「AI戦略2022」との連続性と断絶

本計画は過去の「AI戦略」シリーズを継承しつつも、AI法という独立した法律に基づく法定計画へと格上げされた点が本質的な変化である。計画推進の司令塔が内閣総理大臣を本部長とする「人工知能戦略本部」に格上げされ、政治的優先度が明確に高まった。

主要施策・公募情報

4本柱の具体的取組と研究者に関連する施策

⚠️

公募情報の現時点での状況

本計画は2025年12月23日に閣議決定されたばかりであり、個別の公募・研究開発事業の具体的な公募情報は2026年度以降に順次整備される見込みである。以下では本計画に基づく施策の方向性を整理する。

4つの基本的な方針(施策体系)

① AIを使う
AI利活用の加速的推進
政府ガバメントAI推進(全省庁)
自治体AI導入環境整備(総務省)
社会課題医療・防災・農業・物流等
中小企業デジタル化・AI導入補助金
規制改革AI利活用前提の制度見直し
② AIを創る
AI開発力の戦略的強化
人材国内外トップ研究者の受入
基盤モデルエネルギー効率重視の開発推進
フィジカルAI自律型ロボット・自動運転等
インフラ計算資源・半導体・富岳後継機
AI for Science科学研究へのAI利活用支援
③ AIの信頼性を高める
AIガバナンスの主導
AISI強化英国規模ベンチマーク・人員2倍
指針AI法第13条に基づく適正性指針
国際標準ISO/IEC JTC1での標準化活動
国際連携広島AIプロセス・グローバルサウス
偽情報対策生成AIコンテンツ判別技術の支援
④ AIと協働する
AI社会に向けた継続的変革
産業変革AIトランスフォーメーション(AIX)
雇用リスキリング・代替性・補完性分析
人材育成AI人材を質・量ともに育成・確保
知財コンテンツホルダーへの対価還元
人間力創造力・思考力・適応力の向上

研究者に直接関連する主要施策(本文から抽出)

施策内容主管省庁
AI for Science ライフサイエンス・マテリアル分野等の基盤モデル開発・研究データ利活用効率化・情報基盤強化・AI基礎研究 文部科学省
産学官連携の強化 大学・研究機関・国内外民間事業者との連携・協働を推進。課題解決力を競うコンテストの開催等で現場主導のAI実装を促進 内閣府・文科省・経産省
科学研究へのAI利活用支援 産学双方の研究者等に対し、科学研究におけるAI利活用を支援 文部科学省
トップ人材の受入 国内外からのAI研究者・開発者を確保するため、待遇面・生活環境の向上を含む包括的な取組 内閣府・文科省・経産省
富岳後継機の開発 スパコン「富岳」の次世代となる新たなフラッグシップシステムの開発・整備 文部科学省
マルチモーダルデータ基盤 新たなデータセット・AI研究開発に必要なマルチモーダルデータの創出・提供等のデータ連携基盤の構築 内閣府・デジタル庁・文科省等
AI人材育成・リスキリング支援 AIリスキリング、アドバンスト・エッセンシャルワーカー育成、学校教育でのAIリテラシー向上、デジタルスキル標準の改訂 内閣府・文科省・厚労省・経産省
知的財産保護と対価還元 コンテンツホルダーへの対価還元等の推進、生成AIと知的財産権に関する情報提供、AI利活用により生成された製品・サービスの知財についての検討 内閣府・関係省庁

最新動向・変化点

AI戦略2022からの主な変化

🔴

最重要変化3点

  • 法定計画への格上げ:AI法に基づく法定計画として策定。総理を本部長とする人工知能戦略本部が推進体制を担い、政治的優先度が格段に高まった。
  • 毎年改定の明記:AI技術の急速な進展を踏まえ、「当面毎年変更」を計画本文に明記。政策環境が年単位で変化することへの対応が求められる。
  • AISIの抜本的機能強化:英国AI Security Instituteの規模をベンチマークとし、人員を現状の2倍程度に拡充(2025年9月時点:約200名以上・初期予算約200億円)。
項目AI戦略2022(前版)人工知能基本計画(本計画)変化
計画の法的根拠 根拠法なし(閣議決定のみ) AI法(令和7年法律第53号)第18条第1項 新設
推進体制 AI戦略会議(有識者会議) 人工知能戦略本部(本部長:内閣総理大臣・全閣僚) 新設
計画の改定頻度 明記なし(不定期) 当面毎年変更 変更
AISIの位置づけ AI戦略2022策定後に設置(2024年2月発足)・任意設置 AI法に基づく法定機関として機能強化(人員2倍・英国規模ベンチマーク) 強化
フィジカルAI・AI for Scienceへの注力 言及あり(軽微) 日本の「勝ち筋」として明示的に重点化。公的需要創出、自動運転、ロボット開発を戦略的に推進。 強化
知的財産権への対応 検討課題として言及 コンテンツホルダーへの対価還元、生成AIと知財の情報提供体制整備等を具体化 具体化
AIガバナンスの国際展開 広島AIプロセスを主導(G7) グローバルサウス諸国との共創モデル構築、GPAI東京専門家支援センターの活用等に拡大 拡充
政府・自治体のAI利活用 推進方針として記載 ガバメントAI推進を明示。指定職・管理職による率先利活用、本府省職員の生成AI利活用環境を速やかに構築。 強化
「人間力」の概念 「AIと協働する社会を生き抜く人間力」として創造力・思考力・判断力・適応力・コミュニケーション力を明示 新設

研究者への示唆

本計画が研究活動・資金獲得・キャリアに与える影響

積極的に活用できる点

  • AI for Scienceの予算・施策拡充:文科省を中心に、ライフサイエンス・マテリアル等でのAI活用研究が明示的に支援対象となった。AI駆動型の研究開発アプローチへの転換が資金獲得の追い風になり得る。
  • 産学官連携機会の増大:国内外からのトップ人材受入・産学官ネットワーク強化が政策として明記されており、企業との共同研究や受託研究の機会が拡大する見込みである。
  • 計算資源・データ基盤へのアクセス改善:富岳後継機の開発、マルチモーダルデータ連携基盤の構築が推進されることで、研究現場の計算・データ環境が段階的に改善されることが期待される。
  • スタートアップ支援の厚み:AI関連技術を有するスタートアップへの支援(内閣官房・内閣府・農水省・経産省)が明記されており、研究成果の事業化を検討する研究者にとっての環境が整備されつつある。
  • フィジカルAI・自律型ロボット研究の優先度上昇:日本の「勝ち筋」として明示され、公的需要創出・研究実証が政策的に後押しされる。ロボティクス・自動化に関連する研究分野での競争的資金獲得に有利に働く。
⚠️

注意すべき点

  • 知的財産権の不確実性:生成AIと著作権・学術成果の関係について、政策的な「整理」が進行中である。AIを用いた研究成果の発表・公開において、著作権や特許のあり方が変化する可能性があり、制度動向を注視する必要がある。
  • 毎年改定による制度環境の変化:「当面毎年変更」という計画の特性上、関連する公募・事業スキームや審査基準が年次で変化し得る。複数年度にまたがる研究計画立案の際は、計画の改定動向を継続的に確認する必要がある。
  • AI研究セキュリティへの関心の高まり:安全保障との関連(防衛省・警察庁関連施策)がAI政策の中に明記されており、国際共同研究においてデュアルユース・情報管理に関する確認が求められる場面が増える可能性がある。
  • AI人材の「質・量」定義が流動的:AI人材育成について「質・量ともに育成・確保」と明記されているが、具体的な人材定義・資格要件は今後整備される段階。文科省・経産省が進めるデジタルスキル標準改訂の内容を継続確認されたい。

所属機関種別による影響の違い

所属本計画で特に関連する施策ポイント
大学・研究機関 AI for Science、産学官連携、トップ人材受入、富岳後継機 AI for Science関連の競争的資金・共同研究の機会が拡大する見込み。AIリテラシー教育の需要増加も
企業研究者 フィジカルAI・ビジネスモデル創出、AIトランスフォーメーション支援、AI導入補助金(中小) AIXの推進、規制サンドボックス、スタートアップ支援を活用した新事業創出機会が増大
医療・ライフサイエンス系 ライフサイエンス基盤モデル開発、創薬AI(厚労省)、医療AIの利活用 AMED等を通じたAI×医療・創薬研究への支援が強化。文科省・厚労省の両軸で資金機会あり

今後の見通し

予定されているスケジュールと政策の方向性

ℹ️

見通しの確実性について

本計画は策定直後(2025年12月23日)であり、以下のスケジュールは本計画・統合イノベーション戦略等の一次資料に基づく分析であるが、政治・予算状況により変動する可能性がある。

2026年春頃(見込み)
ベンチマーク・モニタリング指標の公表
本計画は「適切なベンチマークの設定とモニタリング」を明記。人工知能戦略専門調査会での議論を経て指標が整備される見込み。
2026年度中
AISI機能強化の具体化
英国AI Security Instituteの規模(2025年9月時点:約200名)をベンチマークに人員を2倍程度へ拡充予定。AIモデルの技術的評価体制が強化される。
2026年度(予定)
人工知能基本計画の初回改定
▶「当面毎年変更」の方針に基づき、2026年度版への改定が行われる見込み。AI技術・国際情勢の変化が反映される。
人工知能戦略専門調査会での有識者意見聴取を経て改定。
2026年度(予定)
第7期科学技術・イノベーション基本計画の策定
第6期基本計画は2025年度で終了。本AI基本計画との整合性を図った次期基本計画が策定される予定。AI政策の優先度・予算が引き続き重要テーマとなる。
2026年頃以降(見込み)
個人情報保護法改正案(早期国会提出を目指す)
本計画では、AI開発等の円滑化に資する本人同意のあり方等の検討・「個人情報の保護に関する法律」改正案の早期国会提出を目指すと明記。研究データ利活用に影響する可能性がある。
継続的(毎年)
統合イノベーション戦略との年次連動
本AI基本計画は、毎年改定される統合イノベーション戦略と密接に連動。両計画の内容を合わせて確認することが必要。

政策の持続性・安定性についての分析

本計画は「危機管理投資」と「成長投資」の双方にAIを位置づけており、政権・政党を問わず継続される性格を持つ。AI法という独立した法律に基づく法定計画であることが、従来の閣議決定のみによる戦略と比較して政策の継続性を担保している。一方で、毎年改定という特性から、具体的な施策・予算・優先順位は年次で変化し得ることに留意が必要である。

国際情勢(米中AI競争の激化、EU AI規制の動向、広島AIプロセスの展開)も本計画の改定に大きく影響する外的要因であり、特に研究セキュリティや知的財産権に関わる施策については不確実性が残る。

参考資料・出典

本記事の根拠となる一次資料

資料名発行元発行日URL
人工知能基本計画(本文) 内閣府・人工知能戦略本部 2025年12月23日 内閣府 掲載ページ
人工知能基本計画(概要版) 内閣府・人工知能戦略本部 2025年12月23日 概要版PDF
統合イノベーション戦略2025 内閣府 2025年6月6日 内閣府 掲載ページ
AI戦略会議(会議録・資料) 内閣府 随時 内閣府 掲載ページ
AIセーフティ・インスティテュート(AISI) IPA(AISI) 随時 AISI 公式サイト
内閣府 AI戦略ページ(トップ) 内閣府 随時 内閣府 掲載ページ

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です